テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか
スゴ本きました。長文失礼します。知らなかったことだらけでしたので。
吉野 次郎
日経BP社 (2006/11/30)
売り上げランキング: 8014
日経BP社 (2006/11/30)
売り上げランキング: 8014
おすすめ度の平均:
わかりやすい良書です
既得権の問題ですね
テレビ局員が絶対に話さないテレビの常識
テレビ局、キー局、系列局、制作会社、NHK、日本政府、総務省、米国テレビ事情、ハリウッド。このあたりのビジネスの事情を知らずにテレビとインターネットの融合は語るのは、無知すぎることだと痛感しました。
そしてテレビがインターネットを嫌いな理由以上に、テレビ局がテレビを好きな理由がよくわかりました。
以下に内容まとめです。
権利処理のウソ
- 「番組をインターネットで配信するには著作権処理が大変だから、できない」は詭弁。
- 番組をDVDとして売り出すのと、インターネットで配信するのに必要な許可は変わらない。
- 単純に「儲からないから」というだけ。
最強の番組流通システム「系列」
- キー局と呼ばれるテレビ局は5社。その他は地方局。
- 日本テレビ配下の地方局は29社。TBSは27社。フジテレビも27社。テレビ朝日は25社。テレビ東京は5社。
- 地方局はキー局からもらう電波料に完全に依存している。
- 「地方局の経営ほど楽な商売は、この世に存在しない」
- 地方局は放送時間の9割以上をキー局の番組にあてている。
- 地方局とキー局の法律上の違いはない。地方局はいつでも独立できる。キー局が地方局に資本参加できるのは20%に限られている。
- 地方局は自社で制作した番組を自由に流していい。
- 大阪のテレビ局は、お笑いや阪神タイガースなどのコンテンツ力もあって、独自放送が平均3割。
- 地方局はキー局に番組を持ち込むこともできる。
- 「世界丸ごとHowマッチ」も、大阪のテレビ局発の番組だった。
- キー局は地方局の番組の放送をじょじょに閉め出して現在に至った。
地方局はネットが怖い
- 地方局は制作力が無い。
- キー局はリスクヘッジのためにネット放送も限定的にやってみている。
- キー局がネット配信すると、地方局の存在意義が無くなる。
- 地方局の中から「ネットの売り上げの分け前を」との主張もあるとか...。
- キー局は地方局がだんだん疎ましい存在になってきている。
NHKはネットに夢中
- NHKは成長したい。
- NHKは視聴料収入による成長の見込みはなくなった。
- 視聴料不払い騒動で、パンドラの箱は開かれた。
- 広告は販売できないので、ネットでの有料放送が有力。
- NHKアーカイブスはプロパガンダ。コンテンツの死蔵を見せつけ、世論を巻き起こすための布石。ある程度成功している。
- 視聴料不払いの伸びは止まったが、またいつ伸びるかわからないので、ネットでリスクヘッジしたい。
- 視聴料は見なくても徴収される。見たい人だけ対価を支払うネット有料放送は、納得もされやすい。
民放テレビ局が望む「二元体制」
- 日本の放送市場の構造を理解する上で、欠かせないテレビ業界用語。
- 民放が娯楽番組など、20~34歳向けの「低俗な」番組を担当し、NHKはそれ以外をターゲットにした「まじめな」番組を担当する体制。
- 民放の娯楽番組放送率は38%。NHKは15%。段違い。
- 娯楽番組のほうが視聴率をとれるので、民放はまじめな番組は放送したくない。
- 民放が低俗一辺倒の娯楽番組を流していられるのは、NHKがまじめな番組を流しているから。チャンネルを変えればよい。
- 民放テレビ局はNHKのネット進出を阻害しようとしている。
- だが、その理由には筋が通っていない。
- 共存関係が崩れるよ!→NHKが広告事業を展開するとは一言もいっていない
- ネットに夢中になりすぎて公共放送の役割を果たさなくなるよ!→受信料という莫大な収入をないがしろにする理由がない
- NHKがネットに進出したらネットの競争環境が歪むよ!→ネット企業からはNHKのネット進出を望む声ばかりが上がっている
家電業界の野望
- テレビに2画面機能をつけたとき、テレビ局側から「画面が汚れる」と批判された。
- そもそも家電メーカーはテレビ局の広告事業を支えるためにテレビを販売していない。
- デジタル放送対応テレビで、テレビの基本スペックは飛躍的に上がった。ソフトさえ導入すればいつでもネットに対応できる。
- 昔のネット対応テレビが失敗したのは、回線品質が悪かったから。今はブロードバンドが普及したので、可能性がある。
- ネット対応テレビは、OSをマイクロソフトに牛耳られている状況の打開策にもなる。
芸能界とテレビの蜜月に陰り
- 映画からテレビに視聴者が移行したのは「スター」がテレビに移ったからだった。
- 映画業界はスターの移動を阻止しようと、5社協定を結び、スターの囲い込みをかけた。だが次第に協定は有名無実と化した。
- 芸能人がインターネットに移れば、テレビがインターネットに負ける可能性は十分ある。
- ジャニーズは囲い込みの典型的な例。
- 吉本はネットに好意的。
- 少しづつネットに登場する芸能人のレベルが上がってきている。俳優なら昔は脇役級だったが、今ではそれなりに。
制作会社の下克上
- 制作会社の数は約400社。
- キー局の制作現場のスタッフの7割は制作会社から派遣された人材。
- 下請けの制作会社が人気番組を作っていることも珍しくない。
- 制作会社はテレビ以外にも番組を出したい。
- テレビ局は、制作会社が制作した番組の著作権をテレビ局に帰属させている。そのほとんど。
- テレビ局主導の番組なら制作会社も納得するが、制作会社主導が作った番組も、その契約になっている。制作会社としては納得がいかない。
- テレビマンユニオンという制作会社があり、人気番組を多く制作している。
- テレビマンユニオンは、制作の実体的に著作権が帰属すべきところでしないことがあれば、徹底的に抵抗している。場合によっては制作を断ることもある。
- 米国のテレビ局はつい最近まで番組の著作権を所有することが、法律上できなかった。ハリウッド保護政策。
- 米国の制作会社(ハリウッド)はとてつもない力をもっている。
- ハリウッドの番組制作費は半端じゃない。
- ハリウッドの人気ドラマシリーズは1話あたり2億円が相場。大ヒット作は6億円。対して、日本のキー局が1日につぎこむ番組制作費は約3億円。ハリウッドの人気ドラマが面白いわけである。
- 日本のテレビ局は、制作能力の向上を怠らず、法律上の縛りもなかったので、制作会社に対抗できた。
- 制作会社はネットに注目している。テレビ依存から脱却したい。
国策としての制作会社の後押し
- 日本のテレビ局は、制作会社に作らせた番組で積極的に商売しようとしない。
- 価値があるものを死蔵させてしまうことは、国際的に非常に勿体ない。
- 経産省はこの状況を改革したい。
- テレビ局は経産省の管轄外なので遠慮がない。ライバルは総務省。
テレビ局を批判する前に、テレビ局とビジネスをする前に、テレビ局に対抗するために、この本は読むべきだと思います。気になった方は是非。
吉野 次郎
日経BP社 (2006/11/30)
売り上げランキング: 8014
日経BP社 (2006/11/30)
売り上げランキング: 8014
おすすめ度の平均:
わかりやすい良書です
既得権の問題ですね
テレビ局員が絶対に話さないテレビの常識
コメント / トラックバック