「長く聴いてて疲れない音が、いい音です」ハイビジョンサウンド会議で音作りのプロに聞いてきた
「中道(なかみち)社長が考えるいい音とは、何ですか?」
「テイストや好みなどいろいろあるけど、長時間聴いて疲れない音がいい音です」
10月16日に行われたハイビジョンサウンド会議 sponsored by NIROで、株式会社 niro1.com(ニロワンドットコム)の中道社長への質問タイムでのやりとりでした。
中道社長。(手に抱えているのはMovie Mouse)
「ハイビジョンサウンド会議 sponsored by NIRO」は百式PR Boardのイベントで、参加者は「イベントのフィードバックをブログでしていただけるブロガー」でした。僕は参加者として参加させていただきました。
音を忘れたハイビジョンテレビ
「薄型、高精細、大画面!」とインパクトの大きいハイビジョンテレビですが、「音」に関してだけはあまり良くなっていない、むしろ苦しくなっているという説明がありました。現状の技術では、よい音を出すためにはスピーカーのスペースは大きい方がよい音を出しやすく、薄型になったことでスペースが狭まってしまってよい音を出すのが難しくなってしまっているそうです。さらに、大画面に伴って左右のスピーカーの位置が離れすぎてしまい、バランスよく左右の音を聞ける人間の位置が狭くなってしまったそうです。
テレビは大画面で高精細になり映像は綺麗になったけど、それ相応の音が提供されていない、ということを強調していました。
「それでもかなり頑張っていると思います。これだけのスペースでこの音を出せるのは、本当にすごい」(中道社長)
僕も今年になって42インチのフルHDテレビのTOSHIBA REGZA 42Z3500を購入したのですが、たしかに、「音はまあ、それなりかなー」と思って購入しました。テレビ購入と同時にスピーカーを買うかすごく悩んだのですが、まずはテレビだけ買ってみてからにしようと思っていたので、今回のイベントは購入の参考になると思い参加したのでした。
新商品「Q:」(球)
今回のイベントで紹介されたのが、フロントサラウンドシステムの「Q:」です。
フロントサラウンドシステムではその名の通り、「スピーカーの設置が前だけ」で、5.1チャンネル(前、前の左右、後ろ左右、低音用出力)のサウンドを表現できるシステムです。
僕が初めて体験したフロントサラウンドシステムは、I-O Dataの「P2DiPOLE(ピーツーダイポール)」でした。P2DPは変わった形のスピーカーが2個とサブウーハーの構成で、テレビの上に置いて使用するスピーカーです。P2DPを購入したのは2002年頃だったと思うのですが、たしかに後ろからの音はなぜか後ろから聞こえてくるように感じてかなりびっくりした記憶があります。
今回紹介されたフロントサラウンドシステム「Q.」の特徴は以下の通りです。
- 上下2つのフロントスピーカー+サブウーハー(低音発生装置)
- どこにいてもちゃんと聞こえる。左右の音が偏らない。(たしかにスピーカー真正面でなくても偏り感は少なく感じた)
- 「上下感」がある
- 「目をつむって聞くとスピーカーの位置がわからなくなる(良い意味で)」
- 簡単に設置できる「上のスピーカーはテレビの上にちょこんと置くだけ」
- HRTF(音が頭を通っていくときの計算式)を、独自設計した
製品自体については、僕は音には詳しくないので良い悪いは正直なところ何とも言えません。そもそも音は好みにかなり左右されるものです。ということは、どれくらい買いやすいか、買う前の情報が多いか、ということが重要になります。実はNIROは、そういった製品以外で重要な点がすごい会社なのでした。
以下、僕がすごいと思った3つの点です。
1. 販売スタイルがすごい
全てのスピーカーに言えることですが、店頭で試聴してみたときに「で、これをウチに置いてみたらどんな風に聞こえるの?」という疑問があります。店頭はとてもうるさく、試聴するにはかなり厳しい環境です。
当然一番よいのは「自宅で試聴すること」ということで、NIROではQ:を2800円(+送料)で貸し出しており、気に入ったら購入できるという販売スタイルをとっています。さらによくできているのが、「購入する場合は2800円を値引きして購入できる」ので、「気に入ったら購入する」という人であれば実質的に費用の負担無しで貸し出しを受けることができます。
販売でさらにすごい点があります。まず、Q:は当初はネット販売専門だったのですが、最近ビックカメラでも店頭販売を始めたそうです。Q:は値引きをしない製品らしいのですが、ビックカメラでは実質値引きにあたるポイントがつきます。するとネットとビックカメラでポイント分の実質的な金額差ができてしまいます。
そこで、ビックカメラでの販売開始にあわせてネット販売では「ビックカメラのポイント分をAmazon商品券かiTunesの商品券でお返しする」という対応をされました。この柔軟な対応はすごいです。
2. 今どき公式の掲示板があってすごい
NIROでは公式の掲示板を提供しており、ユーザーからの意見は厳しい意見も含めて全て公開しているそうです。今どき公式の掲示板なんてリスクが高くてなかなかできないものなのに、です。個人的には特にスピーカーのような「買ってみないとわからない、高額なもの」を買うときに、こういった正直な掲示板があると真面目に開発していると感じられるので、信頼度が上がっていい感じです。
実際、アクセス解析ではNIROのサイトを訪れるユーザーの8割が掲示板にアクセスしているらしく、かなり利用されているようです。
3. 中道さんの話がすごい
プレゼン後に軽食付きの懇親会タイムがあったので、中道さんにP2DPを買ったときのことをネタに話しかけてみました。
「P2DiPOLEを初めて聴いたとき、すごくびっくりした覚えがあります」
「でしょう。驚きますよね。でも、長時間快適に聴いてられません。すごく疲れますよ」
これを聞いてはっとしました。確かにP2DPは面白い音で映画を観てて楽しかったのですが、聴いた後はいつもぐったりしてたように思います。そのときは単に慣れや映画を観た疲れだと思っていたのですが、ひょっとしたら音に疲れていたのかもしれません。
以下は、みなさんの質疑応答です。
「8万円は決して安いとは言えない金額です。家族を持つ世帯で、奥さんを説得する方法はありますか」
「家庭での決定権は100%奥さんです。奥さんには設置スペースがテレビの周りだけで済むので掃除がラクだと言うと落ちやすいです」
たしかに。スペースに関してはひょっとしたら2スピーカーよりも優れているかもしれません。
「このスピーカーは何年使えますか?(耐久的にも、音的にも)」
「10~15年と考えて作っています。テレビ自体がそれくらい長く使うものだからです」
Q:はデジタルスピーカーなので、スピーカーなのにアップグレードが可能です。最近のスピーカーは音をプログラムで処理しており、処理内容を変えることで音も変わるのです。現状、半年に1回アップグレードしており、アップグレードに際しては掲示板に書かれたユーザーの意見を大いに参考にしているとのことです。なお、アップグレードは有償で、専用メモリーカードの購入に2000円が必要です。
(2008-10-31修正) こちらのアップグレートプランはQ:ではなく従来製品のことでした!Q:はある程度完成されたので、アップグレードプランは用意していないとのことです。誤報すみませんでした!
「掲示板でのユーザーの反応を教えてください」
「こちらがネガティブなことをいうと、ユーザーさんから『そんなことでいいのか』と怒られました」
「掲示板にはいいことも悪いことも全部書いてあります。ぜひ掲示板を見てください」
ユーザーにたしなめられる会社って、なんかいいです。
「白がテカテカでちょっと安っぽい気がするのですが」
「実は店頭では非常に見栄えが良いので用意しました。黒が好きな方はマットな黒のタイプがあります。かっこいいです」
正直ですねえ...。
以上の質疑応答は質疑応答タイムで行われたもので、質疑のスタイルは「まず全員が質問内容を書いて、そのまま読み上げる」「それをホワイトボードに集める」「回答者(中道さん)は、答えられるものから自由に答えていく」という感じでした。この質疑応答スタイルは以前に僕のブログメモをアップしたモバイル業界について勉強する会などのカジュアル勉強会で先だって試みられ、いよいよその成果がこのイベントにフィードバックされていました。
質疑応答は質問自体に時間がかかり、回答の選択も難しいのでリスクの高いスタイルです。「もっと満足度の高い質疑応答タイムがあるのではないか」と考えた結果、このスタイルが生まれました。個人的にはかなり気に入ってるので、ぜひ続けてほしいですし、百式以外のセミナーイベントでもぜひ採用して欲しいです。
ちなみに質問を集めるときは「書いた質問文を、そのまま読み上げること」を強調していました。主に時間短縮のためだと思います。たしかに、質問をくどくど説明しなくても、わかるときはわかるし、質問の意図が汲み取れないときは聞き返してくれます。ときどき質問がいつのまにか主張になっちゃう人の発生も抑えられますw
今回の企画について
今回のイベントでは、百式PR Board的に3つの新しい試みがなされました。
モニターして「気に入ったら割引購入できる」ようにした
「記事を書いてくれたら製品あげるよー」というスタイルは単純ですが問題も多いです。読むほうとして、製品をもらえるから気をつかっていいことを書いてるんじゃないのという勘ぐりは、どうしても思ってしまいます。しかし貸し出しだけというのも、バランスに欠けます。
ということで今回採用されたのが「気に入ったら特別に割り引きで購入できる」というしくみでした。具体的には、2週間の体験モニター中に3本記事をアップし、そのうえで気に入ったら5割引でQ.を購入できる、というものです。送料については受け取りも返却も負担なしです。ちなみに5割という割引率についてはちょっと無理してもらったとのことです。
そして、モニタープログラムは強制ではなく、イベントに参加した上でさらに「興味がある人だけ」が行えます。これは主催側としてはなかなか勇気がいりますね...どれくらいの人がモニターしてくれるかわかりませんし。参加者にとってはイベントレポートだけかモニターも行うかの二択の決定権が得られるので、嬉しいです。
ちなみに今回のイベントのレポートは参加者は全員書くことになっています。「何だよ強制かよ」という向きもあるかもしれませんが、イベントでの話の中には普段は聞けないことを聞けたり、自由質問タイムもあり、参加者にとってはかなり有益です。そもそも参加自体は任意です。それでいてレポートを書かないのは対等ではありません。田口さん的には「企業と個人のコミュニケーションは対等であるべきではないか」との思いがあるそうです。これには同意です。おいしいところを参加者だけがもらってばかりでは、やる側が続きません。
レポート記事にちゃんとリンク&フィードバックするようにした
ブログにレポートは書いたけど、そもそも読んでくれる人が来てくれない...という悩みを抱えている人にかなり嬉しいです。書いたことに反応があるのって、かなり嬉しいです。そして無いと悲しいです。必ずリンクしてくれてフィードバックがもらえるというのは、シンプルに嬉しいです。
これは僕の大好きな本であるパフォーマンス理論的にも、Greatです。
レポートに悩んだときに、書きやすくなるしくみを用意した
「個人的にあるイベントに出席したのですが、なんとなくレポート書けっていわれても、書くのは難しいですね...」(百式・田口さん)
はい。今回は僕は大丈夫でしたが、毎回全員そうもいきません。ということで、書くことに悩んだときに役立つ質問集が送られてきました。「私が考えるNiro+1」がテーマです。
あなただったら・・・ - 製品であと1つ工夫するとしたらどうしますか? - サイトであと1つ工夫するとしたらどうしますか? - 流通であと1つ工夫するとしたらどうしますか? - このブロガー企画の続きであと1つ工夫するとしたらどうしますか? - その他のマーケティングであと1つ工夫するとしたらどうしますか? (もっと多くの人にQ:を知ってもらうにはどうしたらいいと思いますか?)
書くことが思いつかないときは、こういう質問シートがあるといいですね。
初めて実際に音作りをしている方の話が聞けてよかった
今回のイベントでは「映像にふさわしい音声を」「音にもこだわってほしい!」という思いが感じられて良かったです。実は僕は今まで音に対する話は、個人の嗜好に依存しすぎてる感じがする点や、怪しい高額ケーブルやフィルターなどのプラシーボ的感覚、無駄にでかくて重くて中身がスカスカで高級感だけの製品などが目についてて何となく怖い印象がありました。
今回のNIROの中道社長のお話は、ユーザーと真剣に向き合って決して高すぎない価格でよい音を真剣に提供しようと頑張っていて、まったくそんなことはありませんでした。
大画面液晶を買ってから自宅で映画を観る機会が増えたので、これを気にもっと映像にふさわしい音について考えてみようと思います。というわけで、「Q.」の体験モニターをしてみることにしますよ。 :)
コメント / トラックバック