なぜラーメン屋は作務衣を着るのか
ラーメン屋の店内を思い出してみてほしい。
厨房でラーメンを作るのは、作務衣を着たお兄さん。その頭にはバンダナやタオル。メニューは手書き風。壁には人生訓らしき張り紙。
...これって何かに似てない?
まるでろくろを回す陶芸家のような装いである。
(p171)
はーっ!そういえばたしかに!!!と思わせてくれためちゃくちゃ面白い本がこちらの「自分探しが止まらない」。
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かなり面白いです。
自己啓発の本とあわせて服用するのがおススメ
「自分探し」の隘路に自覚的に立つために。
一見「若者の自分探しに冷や水を浴びせるだけの本」に思えそうな本だけど、そんなつまらないものじゃない。本書は全体としては巷に溢れる「自分探し的なモノ」を丁寧に解説し、考察している。そして今まで全く気にしていなかったそれぞれの文化的背景や歴史、特に繋がりなどの考察が強い説得力をもって書かれているので、かなり気持ちのよい納得感がある。
例えば冒頭に示したラーメン屋に近い自分探し的な文化は、「路上詩人」だそうだ。最近はほとんど見かけない「路上詩人」についての解説を本書より引用する。
1990年代後半に突如として生まれた路上詩人という職業がある。これは渋谷などの駅前の広場の地べたに座り、紙と墨で相田みつを風の人生訓を崩した個性的な文字で描き、対価をもらうという仕事である。これはまさに、自分探しが止まらない現代ならではの職業だ。路上詩人そのものは2000年代になって急速に減っており、今では地方の観光地などでたまに見かけることが出来る程度の存在になっている。
(p151)
作務衣を着たラーメン屋としての代表は、1995年に東京に進出してきた「博多一風堂」で、バンダナ・作務衣・手書き文字という文化を持っている。
これらのラーメン屋の傾向は、1990年代後半に生まれた路上詩人に近い文化を持っている。前に路上詩人の軌保博光(*)を取り上げたが、あの時代は彼に限らず、渋谷などの駅前には軌保と似たような格好(タオル&作務衣)をして路上に座り込み、手書きの人生訓(詩)を販売したり、その場のインスピレーションで詩を書く者達が存在した。
ラーメン屋の店員と、彼ら「地べた路上詩人」はどちらの発生が前なのかは定かではないが、ファッションと手書き文字による人生訓に関しては両者は全く同じ文化だと言える。
(p171)
この路上詩人的文化に付け足されるような形で「人生訓」がべたべたと貼られている店が、博多一風堂と同じ九州系の「九州じゃんがららあめん」だそうだ。
その九州じゃんががららあめんの店内の壁に貼られている文章が、以下の通り。
俺たちは今、まさに旅の途中だ。俺たちの旅は果てしなく続く。俺たちを信じてブルカン塾(注:九州じゃんがらが経営する学習塾)に通ってきてくれている子供達のためにも、俺たちが夢を持ってこつこつとまじめに歩むことが大切だ!一杯一杯のラーメンを元気に真心込めてお客様にお届けしよう!
(p171)
「ラーメン=人生」と言わんばかりの熱いメッセージである。
そして肝心のなぜラーメン屋が作務衣を着て陶芸家っぽくなるのかについて、著者はこう結論づけている。
労働のマニュアル化が進み、「技」や「巧み」や「やりがい」が剥奪される一方の世界において、こだわりや職人魂が通用する数少ない業種の一つがラーメン屋なのではないだろうか。
タオルに作務衣という格好は、まるで陶芸家のファッションだが、現代に残された数少ない職人であるという意気込みやあこがれが、そこに残されているのかもしれない。
(p173)
なるほど納得感のある考察である。
さて、ふつう、「自分探し的なモノ」として連想するのは、いきなりの語学留学であったり、バックパックひとつの貧乏インド旅行などである。しかしよくよくみると、自分探し的なモノは社会には結構あるのだ。そうしたいろいろな自分探し的なモノの網羅性と考察が、個人的には本書の見所だと思った。
以下に本書が扱っている「自分探し的なモノ」の見出しの一部を列挙しておくので、気になったかたはぜひ読んでみてほしい。これについて知っていても知らなくても、面白いはず。
- 『あいのり』の旅で見つかる「自分らしさ」
- イラク人質事件に見る「自分探し」
- 現代の若者はまだインドを目指す
- 自己啓発本のルーツ
- 自分探しのカリスマ高橋歩とサンクチュアリ出版
- 自己啓発セミナーの歴史とニューエイジ
- カルト化する自己啓発セミナーとX JAPANのToshi
- 自分探しの旅の起源と歴史
- 止まらない自分探しの旅と外こもり
- ホワイトバンド狂想曲とその顛末
- 自己啓発系緯酒屋「てっぺん」
- 「ねるとん」世代と「あいのり」世代の価値観の違い
- 「癒しとしての消費」と「さまよえる良心」
- ハルマゲドン2.0としての梅田望夫
- 団塊と団塊ジュニアの共通点
なお、本書は自分探し自体を否定しているわけではない。行きすぎた自分探しと、自分探しホイホイによって搾取される構造は、問題視している。僕もその立場である。
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